Number理美容経営者のターニングポイントを知り、学ぶ。
1976年3月25日、静岡県富士宮市生まれ。美容専門学校を卒業後、東京の美容室で2年間修行を積んだ後、母親の経営する『有限会社すみ企画』に就職。多店舗展開にも大きく貢献しながら周りの社員にも認められ、2018年にすみ企画を事業承継。現在は、『デラモードインスミ本店』『アルクール』『ルシード田中店』をはじめ7店舗(系列店含む)を運営している。
地道な努力・親子喧嘩・腹決め。
そのすべてが承継のバトンを確かなものにした。
想定外の修行期間を経て、母親の美容室に就職。
富士宮市で2店舗の美容室を経営し、SPCの静岡本部長を務める。そんな偉大な母・澄子さんの足跡を辿ることになるきっかけは、高校卒業後の進路選択だった。「元々美容師になるつもりはなかったのですが、母から『大学に行くなら地元にしてね。美容学校に行くなら東京でもOK』と言われ、当時東京への憧れが強かった私は、迷わず後者を選びました」
美容専門学校を卒業後は、そのまま東京の美容室に就職。当初は5年間の修行を計画していたが、日々の業務・コンテストへのチャレンジなどの無理が祟って体調を崩し、帰郷を余儀なくされてしまう。地元に戻ってからは、他店の求人にいくつか応募するが、全滅。本意ではない形でのすみ企画への入社が決まる。「7店舗ほど面接を受けましたが、母親の名前を出した途端、『あ〜』って。それほど当時の母親はバリバリで、地元では有名だったんです。私自身それなりの経験を積んでから…と考えていましたが、止むなくの入社でした」
シャンプーからはじまった2代目のヒストリー。
座右の銘は“コツコツ勝つコツ”。やるとなったら謙虚に、地道に継続する。2年の修行でカットができるまでの経験は積んでいたが、すみ企画の入社後まずはシャンプーからはじめた。一つずつ社内の検定をクリアして、いちスタイリストとして研鑽を積むことで周りからも認められ、チーフ・店長・マネージャーと、一歩ずつ歩みを進めた。「娘だからという特別扱いだけは、母親は絶対にしませんでした。むしろ厳しく。他の社員と給料も同じで、幹部会議にももちろん出られません。それがあったから、私は私で、目の前のことに全力で取り組み、その姿を周りに見せることで認めていってもらえたのかなと思います」
親子だけに、喧嘩も絶えなかった。あんたなんか出ていきなさい!こんな会社辞めてやる!意見の食い違いから対立し、しばらく口を聞かないことも。当初は社員に親子喧嘩を見せることに抵抗を感じていたが、ある人物の助言で考え方を変えた。「SPCの横山創設理事長に『親子なんだから、もっとみんなの前で喧嘩しなさい』って言われたんですよ。え、そうなの?と思って。『それだけお互いに会社のことを考えた上でのぶつかり合いなんだから。そういうのがないと、逆に社員は心配になるよ』と。その言葉で気持ちが楽になりました」
母親の反対を押し切り、SPCに入会!
SPCに入会したのは、27歳の時。当時、母・澄子さんが静岡本部の本部長を務めていたためイベントには頻繁に参加しており、そこでのSPC会員のふとした一言で入会を決意する。「ある時、『もし今、お母さんが急に亡くなって、会社を継ぐことになったらどうする?』って聞かれたんですね。そんなこと考えたこともなかったんですけど、それはそうだなと、一瞬で危機感を覚えました」
経営も学んでおいた方がいい。そう考え、澄子さんにSPCへの入会を相談するも、『まだ早い』『経営者は二人もいらない』と一度は反対される。そこで自ら入会金を用意して本部長である澄子さんに手渡すと、『そこまで言うなら』と了承をもらった。
入会後3年間は愛知本部に籍を置き、週に1回名古屋まで通う。「所属は静岡なのですが、静岡には母がいたので。愛知本部の方から誘っていただいて、まずはそちらでお世話になりました。娘さんだからということもなく、対等に扱ってくれたことが結果的に自分のためになりましたね。本当に怖かったし、コンチクショー!と思うようなことも言われましたし(笑)。でも、このSPCへの入会が、負けん気の強い自分の活力になって、その後の業績更新への挑戦や店舗展開につながっていったと思います」
そして、承継へ。母と仲間と歩んだ20年が結実。
自身の入社から約20年、多店舗展開にも大きく貢献し、会社が45周年を迎えた2018年に母から娘へと事業承継が成された。経済的価値を引き継ぐ意味合いが強い“継承”ではなく、理念や思想を受け継ぐ意味合いの強い“承継”である。「うちは、代替わりがうまくいっていると周りから言っていただくことが多いのですが、なぜかと考えた時に思いつくのは、やはり20年という年月を母と、従業員のみんなといっしょに作り上げてきたことですね。私たちはファミリーなんです。だからこそ、会社名も理念も変えることなく事業を承継する選択ができましたし、それによって共に歩んできた従業員を迷わせることなく新たな歩みをはじめられたのだと思います」
さらに、承継後の母・澄子さんの立ち振る舞いも大きかった。「私が2代目をやると腹を決めた一方で、母も任せたからには口出しは一切しないと腹を決めたようで。それってすごく我慢が必要だと思うんですよね。葛藤もあったと思いますよ。でも、そのおかげもあって今は順調に運営できています」
承継のあるべき姿を、SPC会員へと受け継ぐ。
SPC東海本部では今、承継プロジェクトが立ち上がっており、すみ企画と同じように将来的には事業を引き継ぐ形になる会員の方に、その成功体験を伝えている。「私は、継ぐ立場で会社に入ってきた一方で、今後は承継者を作っていかなければならない立場。両方の想いがわかるので、どちらの立場の人ともお会いして、お話を聞いたり、アドバイスをさせてもらっています」
デリケートでかつ話せる相手が少ないテーマだけに、親身になる。「みなさんやっぱり、話を聞いてほしいみたいです。会社では言えないし、スタッフにも相談できないし、そもそも親子間の問題だし、話せる人が少ない。私はもっぱら聞き役ですね。自身の経験を活かして、これから承継する方々のお役に立てたらうれしいです」
地域に根づく会社づくりで、100年企業へ。
富士宮市を拠点に、富士市・静岡市で計8店舗を構えるすみ企画は、地域のニーズに応えるため、障害者の送迎サービスやがん患者の個室美容室、犬の美容室などのサービスを展開している。「送迎は20年ほど前からはじめていて、うちと言ったら『送迎のあるところね』と言われるくらい地域に定着しているサービスです。よくあるのは“訪問美容”だと思うのですが、できれば美容室に行くという特別な時間を味わって欲しいという思いで、送迎担当の人も雇って力を入れています」
また、美容室としてはめずらしい地元企業とのコラボレーションも。「レジ横に地元の農家が作った野菜を置いています。ついでに買い物できれば夕飯の買い物がひとつ省けるじゃないですか。他にも地域のポップコーン屋さんと提携して、ポップコーンを置いたり、着付け部屋にカイロプラクティックを呼んだり。100年企業を目指しているので、そのためにも地域に根づく会社づくりをしていきたいです」
母から受け継いだバトンをしっかりと握りしめた第2走者は、地域という足元をしっかりと見つめながら、仲間たちとともに歩みはじめている。
INTERVIEW DATA
- 会社名
- 有限会社すみ企画
- 代表
- 稲葉 純子
- 創業
- 1973年10月
- 店舗数
- 7店舗(系列店含む)
- スタッフ数
- 39名
- 本社所在地
- 静岡県富士宮市貴船町9-24