Number理美容経営者のターニングポイントを知り、学ぶ。
1972年3月1日、静岡県駿東郡小山町生まれ。高校卒業後、美容専門学校へ入学。その後、約3年半の他店修行を経て、母が経営する美容室へ就職。2003年に事業承継し、『有限会社チェル』を設立。現在は、『ミュゲ美容室』『hair&make CheRu』『LUCID STYLE CheRu』『Esthetic Angero』など、5店舗を運営している。
母から受け継いだ“すずらん”が
静岡の街を笑顔で揺らし続ける。
美容師の母の背中を追って、同じ道を選択。
幼い頃から、自宅で美容室経営をしていた母の背中を見て育った。高校卒業後、美容師の道へ進んだのも母親の影響だ。「当時から美容師を目指していたわけではないのですが、OLになって働いている自分が想像できなくて。結局、ずっと近くで見てきた母と同じ職業を選ぶことになりました」
美容専門学校へ1年間通った後、沼津市の美容室で６年ほど修行してから実家の『すずらん美容室』へ戻ることに。その頃、相棒のスタッフと2人でお店を切り盛りしていた母は、老眼のため刈り上げなど細かな作業に限界を感じ始めていた。「相棒のスタッフさんは、私が小さい頃によく面倒を見てくれていた方。私も微力ながら母たちのサポートをしたいと思ったんです」
すずらん美容室ではブライダルの着付けやヘアメイクのサービスも行っていたため、働きながら東京のヘアメイクスクールでメイクのスキルも身につけた。
松薗さんの言葉に出会い、その日にSPCへ入会。
SPCに出会ったのは、28歳の頃。SPCで講師業をしていた当時の夫に、松薗芳子さん（第17代SPC理事長）のセミナーのチケットを譲り受けたのがきっかけだ。「夫が仕事で行けなくなり、『せっかくだからお母さんと二人で行っておいで』と言われたんです。正直そこまで乗り気ではなかったのですが、結果的に、セミナーを受けたその日に入会しちゃいました（笑）」
とにかく、講師の松薗さんの言葉が一つひとつ心に響いたのだ。ちょうどその頃、若い新人スタッフの教育について試行錯誤を重ねていた時期でもあった。「私はスタッフに厳しく指導するのが苦手で、そのことに悩んでいたのですが、松薗さんが『人は褒めて育てるのよ。どんどん褒めなさい』とおっしゃっていて。今のままでいいんだと安心できました。『人間ギラギラしなきゃダメよ。そっちの方がうまくいくのよ』という言葉も印象的で。セミナーの内容ははっきりとは覚えていないのですが、松薗さんの感性と母の感性が近かったこともあって、いろいろ腹落ちしたんだと思います」
とにかく松薗さんのように、人としての器を大きくしたい。そんな直感的な動機で、SPC活動をスタートさせた。
教わった通りの集客・求人で、経営が右肩上がりに。
SPCの定例会議に参加するようになったが、内容がまったく頭に入ってこない。「そりゃそうですよね。自分のお店の売上すら知らなかったくらいなので、経営については本当に素人でした。それでも毎回親身になって教えてくださる方がいて、その方のおかげでなんとか会議の内容が理解できるようになったんです」
一方で、定例会議後の懇親会は必ず参加するようにした。「懇親会は、お酒を飲みながらいろんな人と話して仲間づくりをする場所です。当時、私がいちばん年下だったこともあり、皆さんに可愛がっていただきました」
SPC活動を始めて、教わった通りに集客のチラシを作ると売上が伸び、教わった通りに求人広告を出すと良いスタッフに恵まれ、『すずらん美容室』は徐々に良い方向へ向かうようになった。「この頃に入社したスタッフは、20年以上経った今でもうちで働いてくれています。ありがたいですよね」
美容室のある小山町須走は、富士山を望むのどかな田舎町だ。田園風景が広がり、時々山から猪や猿が降りてくることもある。「こんな辺鄙な立地にも関わらず、連日多くのお客様が来てくださるようになったので、2店舗目の出店を考え始めました」
いろんな人の考えに触れて、2店舗目のピンチを脱出。
2003年に母から事業承継し、有限会社チェルを設立。「個人経営っていい時はいいのですが、悪い時は自分のお給料を削ったりして大変なんです。スタッフにはもちろん、母にもちゃんとお給料を支払いたいと思って法人化しました」
『すずらん美容室』は『ミュゲ（muguet）』に名称を変更。「平仮名表記は検索されにくいんじゃないかなと思ったので、カタカナとアルファベットで表記することに。『すずらん』の意味合いは残したかったので、フランス語の『muguet（すずらん）』にアレンジしました」
2004年、御殿場市に『チェル（現hair&make cheru）』をオープン。初めはチラシ効果もあって順調な滑り出しだったが、3ヶ月後に客足が止まった。「街に出店すれば、間違いないと思い込んでいたのでショックでしたね。でも、こういう時にSPCでの学びが活きてくるんです。まず、お客様はどんな店に来たくなるのかスタッフとたくさん話し合いました。SPCでは懇親会やイベントに積極的に参加して、いろんな方と語り合って、人となりを感じて、スタンスに触れることで、自分なりの解決方法を見つけられたような気がしています」
こうして2店舗目『チェル』も、少しずつ売上が伸びていった。
みんなで掴んだルシードの成功が、大きな自信に。
2013年、3店舗目となる『LUCID STYLE CheRu』をオープン。「ルシードスタイルのコンセプトに感銘を受けていたので、本当はもっと早く出店したかったのですが、幹部のスタッフたちに『今じゃない』と止められてしまって。お店をしっかり黒字化させてからにしようと、みんなでがんばったんです。足元を見ずに一人でワクワクしていたことを反省して気づきました。私はただお店を出したいわけじゃない、このスタッフたちと一緒にお店を出したいんだって」
ルシードスタイルは、今までの店舗と比べて規模が違った。売上目標も1,000万円と一気に上がった。「ルシード出店にあたっては、集客から求人、運営に至るまでSPCにサポートしていただきました。絶対に成功したかったので、軌道に乗るまで3年間『チェル』をクローズしてルシードに専念することにしたんです」
実際に、オープンして1年も経たないうちに売上目標を達成。今まで見たことのない数字に達成感を感じた。「スタッフと一緒に全力で取り組んできたルシードの成功は、私の自信につながりました。経営は“やり方”ではなく“あり方”だと証明することができた瞬間でもありました」
その後、マツエクや脱毛、ネイル専門のサロン、メイクスタジオ、ブライダル事業など、様々な業態のサロン、サービスを展開。現在も、その領域を着実に広げている。
すべてはスタッフのため、母のため、自分自身のため。
「SPCは、私にとってなくてはならない存在です。情熱あふれる人たちに会うだけで、自分が活性化するんですよね。これからもSPCにパワーをいただきながら、今あるお店を育てていきたいですね」
経営者としての使命は、スタッフにとってさらに良い会社にすること。全スタッフが今より活躍できる場を作ること。「人ってつまらなくなると辞めちゃうので、スタッフが毎日楽しんで働ける環境を作りたいんです。売上のために店舗を増やそうとは思っていません。今スタッフが育ってきているので、一人ひとりが活躍できる場所を与えたい。そう考えると、やっぱり今後も店舗展開はしていくと思います」
チェルが目指す大きな目標は年商5億。一つひとつの店舗のクオリティを上げて、生産性を見直して、売上を上げる。すべては大切なスタッフのため、いつも近くで見守ってくれる母のため、そして自分自身のために。 “すずらん”はこれからもきっと、可憐な小花を鈴なりにして静岡の街を笑顔で揺らし続ける。
INTERVIEW DATA
- 会社名
- 有限会社チェル
- 代表
- 芹澤 由枝
- 創業
- 2003年5月
- 店舗数
- 5店舗
- スタッフ数
- 42名
- 本社所在地
- 静岡県御殿場市萩原676-18
